好きなイラストを模写して、見本に近い絵を描けた。
でも、次の日に何も見ずに描こうとすると、いつもと同じ絵に戻ってしまう。
模写中は描けた手や服のシワも、自分のキャラクターでは描けない。
こうなると、「模写しても上達しないのでは」と感じます。
模写には、見た形を正確に写す練習としての意味があります。ただ、自分の絵で使えるようになりたいなら、そっくり描いたところで終わらせないほうがよいと思います。
模写を始める前に一つだけ持ち帰るものを決める。描きながら作者の選択を考える。最後に見本を閉じ、自分の絵で使ってみる。
この記事では、そのために模写中に何を考えればよいかを、実際の手順にしてみます。
最初に「何を持ち帰るか」を一つ決める
一枚のイラストには、顔、人体、線、色、光、構図、服、背景など、見るものがいくつもあります。
全部を一度に学ぼうとすると、結局は見えた線を追うだけになりがちです。
模写を始める前に、今回持ち帰りたいものを一つ決めます。
たとえば、
- 斜め顔で、奥側の目をどのくらい小さくしているか
- 立ち姿を硬く見せないために、胸と骨盤をどう傾けているか
- 髪を柔らかく見せるために、どこで線を途切れさせているか
- 肌と服を分けるために、影の色をどう変えているか
- 人物を目立たせるために、背景の情報をどこまで減らしているか
といったものです。
「好きな絵を一枚模写する」より、「この絵から髪の線の省略方法を一つ持ち帰る」と決めたほうが、見るところがはっきりします。
目的と関係のない部分は簡単に描いても構いません。髪の線を見たい日なら、服や手を丁寧に仕上げなくても練習はできます。
「どこにあるか」だけでなく「なぜそうしたか」を考える
模写では、目の位置や輪郭の長さなど、見本に何が描かれているかを観察します。
それに加えて、作者がなぜその形や色を選んだのかも考えます。
答えが分からなくても構いません。正解を当てることより、自分なりの仮説を持ってから描くことが目的です。
たとえば、髪の線が途中で消えているなら、
「光が当たっているから消したのか」
「顔の輪郭を見せるために線を減らしたのか」
「全部描くとうるさくなるから省略したのか」
と考えてみます。
人物の顔だけが明るいなら、単に肌が明るいのではなく、視線を顔へ集めるためかもしれません。
ポーズで片方の肩が下がっているなら、左右をきれいにそろえるより、力の抜けた印象を優先したのかもしれません。
理由を考えると、線や色を表面だけ写すのではなく、「どんな場面でこの方法を使えるか」まで考えやすくなります。
模写中に使える5つの質問
何を考えればよいか分からなくなったら、次の質問から一つ選びます。
- 一番目立つところはどこで、ほかと何が違うか
- 描かずに省略しているところはどこか
- 自分なら描き込むのに、作者が単純にしたところはどこか
- 同じ形が繰り返されているところはあるか
- この部分を変えたら、絵の印象はどう変わるか
たとえば目が印象的な絵でも、目だけが細かく描かれているとは限りません。周囲の髪や肌の情報を減らしたため、目が目立っている場合もあります。
「目の描き方を真似する」だけではなく、目以外をどう扱っているかまで見ると、自分の絵へ応用しやすくなります。
五つすべてに答える必要はありません。一回の模写で一つか二つ考えられれば十分です。
似せるための模写と、使うための模写を分ける
模写には、少なくとも二つの目的があります。
一つは、見本とのずれを見つけ、形を正確に捉えることです。
もう一つは、見本で使われている描き方を、自分の絵でも使えるようにすることです。
前者では、位置や大きさを細かく比べます。グリッドを使う、画像を重ねる、左右反転するといった確認も役立ちます。
後者では、完全に似せることより、作者が使った考え方を取り出します。顔の描き方を学びたいなら、絵全体を完成させず、顔の角度やパーツの置き方だけを何種類か試す方法もあります。
一枚の模写で両方を完璧に行おうとすると時間がかかります。
今日は比率を正確に取る日。次は線の省略を調べる日。その次は色の面積を見る日。
同じ見本を、目的を変えて何度か使ってもよいと思います。
描き終わったら「違うところ」を一つだけ探す
模写が完成したら、上手いか下手かで評価せず、見本と最も違うところを一つ探します。
顔が似ていないなら、目の形だけが原因とは限りません。
頭全体の傾きが違う。顔の余白が狭い。目と眉の距離が近い。髪の面積が大きい。
まず大きな違いから見ます。
見つけた違いを全部直そうとすると、見直しだけで疲れてしまいます。その日に直すのは、目的に関係するものを一つにします。
「奥側の目を小さくしたつもりだったが、横幅ではなく高さまで縮めていた」
「肩の傾きは合っていたが、骨盤まで同じ方向へ傾けていた」
ここまで具体的に分かれば、次に描くときの注意点になります。
一度、見本を閉じて描いてみる
模写した内容を自分の絵で使えるか確かめるには、見本を閉じて描いてみます。
きれいに描き直す必要はありません。一分か二分で、学んだ部分だけ再現します。
髪の線を調べたなら、髪の束を三つだけ描く。胸と骨盤の傾きを見たなら、丸や箱でポーズを描く。影色を調べたなら、小さな顔に同じ考え方で影を置く。
思い出せなければ、もう一度見本を開きます。
見ながら描けることと、見ずに使えることの間には差があります。その差を確認するための短いテストです。
見本を閉じた途端に何も描けなくても、模写が無駄だったわけではありません。どこを理解せずに写していたかが分かったので、次に見る場所が決まります。
最後に一か所だけ変えて描く
見本を閉じて再現できたら、そのままもう一枚模写するのではなく、一つだけ条件を変えます。
- 同じ顔の描き方で、向きを少し変える
- 同じ重心を使い、自分のキャラクターに別の服を着せる
- 同じ影の考え方で、光を反対側から当てる
- 同じ配色の割合で、別の色を使う
- 同じ構図で、人物と背景の内容を入れ替える
全部をオリジナルにしようとすると難しくなるので、変えるのは一つだけにします。
見本と同じ条件なら描けるが、少し変えると崩れる。その部分には、まだ理解できていないことが残っています。
ここで生まれた疑問を、次の模写の目的にできます。
30分で模写するなら、この順番で進める
平日に30分使うなら、次のように分けられます。
- 3分:今回持ち帰るものを一つ決める
- 12分:目的に関係する部分だけ模写する
- 5分:見本と比べ、違いを一つ見つける
- 5分:見本を閉じて描き直す
- 5分:自分のキャラクターや別の条件で使う
時間が足りなければ、模写する範囲を小さくします。
全身を描かずに肩と腕だけ、完成イラスト全体ではなく小さな構図だけ、塗りを仕上げずに色の面積だけを見ることもできます。
一枚を完成させることより、模写で見つけたものを一つ使うところまで進むことを優先します。
一日一時間の練習へ組み込む場合は、社会人が毎日1時間だけ絵を練習するなら、何をすればいい?で紹介した短い練習の時間にも入れられます。
技法書の作例を使う場合も同じです。絵の技法書を買ったけど、どう使えばいい?で紹介したように、必要な部分だけ確認して自分の絵へ戻します。
悩み別に、見るところを変える
顔を描けるようになりたい
目や口の形だけでなく、頭全体に対する位置を見ます。
顔の中心線、目から顎までの距離、髪が占める面積、頬や額の余白を比べます。見本を閉じたあとは、同じキャラクターを少し違う角度で描きます。
ポーズを自然にしたい
輪郭より先に、頭、胸、骨盤、接地している足の位置を見ます。
左右の肩や腰がどちらへ傾いているか、どこに体重が乗っているかを簡単な形で描きます。最後に、自分のキャラクターへ似た重心のポーズを取らせます。
線を良くしたい
線の形だけでなく、太くなる場所、細くなる場所、途切れる場所を見ます。
全部の線を写さず、髪、服、肌など素材を一つ選びます。同じ強弱を使って別の形を描き、見本がなくても線を使い分けられるか確認します。
色や光を学びたい
色をスポイトで取るだけでなく、どの色がどれくらいの面積を占めているかを見ます。
明るい色と暗い色、鮮やかな色と鈍い色がどこに置かれているか、小さな四角や簡単な人物で再現します。そのあと色相を変え、同じ面積の関係が使えるか試します。
構図を学びたい
細部を描かず、数センチ程度の小さな絵にします。
人物と背景を大きな明暗の塊に分け、最初にどこを見るか、その次にどこへ視線が移るかを考えます。模写後は、人物を別のキャラクターへ変えて同じ配置を試します。
模写の記録は三行でいい
練習ノートを細かく作らなくても、次の三つを残せば振り返れます。
- 予想:作者はなぜこの描き方をしたと思ったか
- 発見:模写して初めて分かったこと
- 次:自分の絵で何を試すか
たとえば、
「顔を目立たせるため、髪の線を減らしたと予想。模写すると、線だけでなく髪の明暗差も弱かった。次の絵では顔の周囲だけ描き込みを減らす」
と書きます。
ページ数や模写した枚数より、次に試すことが一行残っているほうが、作品へつなげやすくなります。
模写した絵を公開するときは確認する
個人の練習として描くことと、描いた模写をインターネットへ公開することは分けて考えます。
公開したい場合は、元作品の作者が示している利用条件や二次創作の方針を確認します。元作品や作者名を明記すれば、何でも公開してよいとは限りません。
公開の判断に迷う模写は、手元の練習として使うのが無難です。自分の作品として販売したり、仕事の実績として掲載したりすることも避けます。
まとめ:模写の終わりを「描き写したとき」にしない
模写で何を考えればよいか迷ったら、最初に持ち帰るものを一つ決めます。
描きながら考えるのは、線がどこにあるかだけではありません。
なぜ省略したのか。なぜそこを目立たせたのか。別の絵でも同じ方法を使えるか。
描き終えたら見本との違いを一つ探し、見本を閉じて短く描き直します。最後に、自分のキャラクターや別の条件で一度使います。
今日試すなら、好きな絵から「自分の絵にも取り入れたい部分」を一つ選び、その部分だけ10分模写します。そのあと見本を閉じ、形や条件を一つ変えて描いてみます。
そこで描けなかったところが、次に調べることです。


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