クロッキーを始めようとすると、「毎日やったほうがいい」という話をよく見かけます。
一日十体、三十日継続。そこまでできれば効果はありそうですが、仕事がある日に続けるのは簡単ではありません。
数日休んだだけで記録が途切れ、そのままやめてしまうこともあります。
社会人が絵を描くなら、クロッキーを毎日の日課にしなくてもよいと思います。
まずは週に2〜3回、一回10〜15分程度で十分です。毎日続けることより、何を直したくて描くのかを決め、自分の作品へ戻すほうが大切です。
クロッキーは何のためにやるのか
クロッキーは、短い時間で人や物の形を捉える練習です。
人物なら、細かな顔や服を描き込む前に、ポーズの流れ、体の傾き、重心、手足の長さなどを見ます。
ただし、クロッキーを続ければ絵に必要なことがすべて身につくわけではありません。
手の構造が分からないなら、手を観察して描く練習が必要です。顔を魅力的に描きたいなら、目鼻の配置や立体を調べる時間も要ります。色や構図は、クロッキーとは別に考えなければなりません。
クロッキーは万能な基礎練習というより、短時間で形や動きを見るための練習です。
自分の絵を見て、
- 人物が棒立ちに見える
- ポーズが硬い
- 全身を描くと手足の比率が崩れる
- 写真を見ても、どこから描けばよいか分からない
- ラフに時間がかかりすぎる
と感じているなら、クロッキーを試す理由があります。
反対に、今困っていることが塗りや背景なら、限られた練習時間を毎日クロッキーに使わなくても構いません。
毎日やらなくてもいい理由
絵に使える時間が一日一時間だとします。
毎日30分クロッキーをすると、描きたい作品に使える時間は半分になります。準備や資料探しにも時間がかかれば、作品をほとんど進められない日も出てきます。
練習だけが続き、完成した絵が増えない状態になると、「何のために描いているのか」が分からなくなりがちです。
クロッキーを毎日続けること自体が目的になると、枚数をこなすことにも意識が向きます。昨日十体描いたから、今日も十体描く。時間内に終えることを優先し、見直さないまま次へ進む。
それよりも、週に2〜3回だけ集中して描き、ほかの日は作品へ使うほうが、練習した内容を試しやすくなります。
社会人が毎日1時間だけ絵を練習するなら、何をすればいい?でも、短い練習と作品制作を分けすぎない方法を紹介しています。
週2〜3回、10〜15分から始める
最初は一回10〜15分で区切ります。
たとえば、次のような組み方です。
- 火曜日:10分クロッキー、そのあと作品を描く
- 木曜日:15分クロッキー、そのあと作品を描く
- 日曜日:前のクロッキーを見直し、必要ならもう一度描く
一週間に三日描く場合でも、合計は30〜40分程度です。
これなら作品制作を大きく圧迫しません。疲れている週は一回だけでも構いません。絵を描ける時間が多い週は、回数を増やせます。
曜日を厳密に守る必要もありません。「一週間に二回できたらよい」くらいにしておくと、一日休んだだけで習慣全体が崩れるのを防げます。
一回の練習では目的を一つにする
クロッキーを始める前に、その日に見るものを一つ決めます。
たとえば、
- 背骨の流れを見る
- 胸と骨盤の傾きを見る
- どちらの足に体重が乗っているかを見る
- 腕と脚の長さを比べる
- ポーズのシルエットを見る
といった内容です。
全部を同時に意識しようとすると、短い時間では処理できません。
今日は重心を見ると決めたなら、顔や指を描き込まなくて大丈夫です。頭、胸、骨盤、足の位置を簡単な形で置き、立って見えるかを確認します。
翌日は胸と骨盤の向きだけを見るなど、目的を変えます。
10分クロッキーの進め方
短時間で行うなら、次の方法から始められます。
- 今日見るものを一つ決める
- 2分で一体を描く
- 同じ条件で四体描く
- 残り2分で四枚を見比べる
見直すときは、一番うまく描けたものを選ぶだけではなく、同じ失敗がないか探します。
毎回脚が短い。胸と骨盤が同じ向きになる。接地している足が浮いて見える。
繰り返している問題を一つ見つけたら、次回のテーマにします。
二分では短すぎるなら、五分を二体でも構いません。速く描くことが目的ではないので、自分が形を考えられる時間に調整します。
速く描くほど上達するわけではない
30秒や1分のクロッキーもありますが、初心者には短すぎる場合があります。
どこを見ればよいか分からないまま時間だけが過ぎ、焦って輪郭をなぞって終わることがあるからです。
時間内に全身を完成させる必要はありません。ただし、考える余裕がまったくないなら、制限時間を長くします。
最初は五分で一体描き、慣れたら二分にする方法でも問題ありません。反対に、動きの大きな流れだけを取る練習なら、一分へ短くすることもできます。
制限時間は難易度を調整するためのものです。短ければ短いほど優れた練習になるわけではありません。
輪郭だけを追わない
写真を見てクロッキーをすると、体の外側の線を順番になぞりたくなります。
輪郭から描く方法が悪いわけではありませんが、人物の傾きや重心を見たい場合は、最初に体の内側の流れを取ったほうが分かりやすいです。
頭の位置を置く。背骨の流れを一本の線で引く。胸と骨盤を簡単な箱や楕円で置く。最後に腕と脚をつなぐ。
服の細部や髪は、そのあとで必要な分だけ足します。
完成した線画を作る練習ではないので、線が何本重なっても構いません。どこへ体重がかかっているか、どちらへ動こうとしているかが見えれば、その日の目的には近づいています。
描いたあとに一つだけ直す
クロッキーは、描き終わった直後に一枚だけ直すと使いやすくなります。
元の写真と見比べて、最も違うところを探します。
- 頭が大きかった
- 胴体が長かった
- 骨盤の傾きが反対だった
- 足を置く位置が内側すぎた
違いを見つけたら、消しゴムで全体をきれいに直すのではなく、別の色で正しい位置を重ねます。
修正前の線を残しておくと、自分がどちらへずらして描く傾向があるか分かります。
一回の練習で直すのは一つで十分です。毎回同じ問題が出るなら、その部分だけ時間を取って調べます。
クロッキーを作品に戻す
クロッキーだけを続けても、自分の絵に変化が出たか判断しにくいことがあります。
練習した日は、そのあとで自分のキャラクターに似たポーズを取らせます。
写真をそのまま写す必要はありません。腕の方向を変えたり、座っていた人物を立たせたりして、練習で見た重心や胸と骨盤の傾きを使います。
ここで描けなければ、練習が失敗だったわけではありません。何を理解できていなかったかが分かったということです。
必要なら写真や技法書へ戻り、分からない部分だけ確認します。
効果は枚数ではなく、同じ課題で比べる
百体描いたという枚数は分かりやすい目標ですが、上達したかどうかは枚数だけでは判断できません。
一か月に一度、以前と同じ写真を使って、同じ制限時間で描いてみます。
比べるときは、
- 頭身や手足の比率が近づいたか
- 胸と骨盤の向きを分けて描けたか
- 接地している足に体重が乗って見えるか
- 線を描き始めるまでの迷いが減ったか
など、自分が練習していた項目を見ます。
変化がなければ、回数を増やす前に方法を変えます。時間を長くする、描いたあとに修正する、人体の本で構造を確認する、といった方法があります。
毎日やるのが向いている場合
毎日のクロッキーが合う人もいます。
短期間でポーズを集中的に練習したいときや、描き始める前の準備運動として負担なく続けられるときです。
毎日行うなら、五分程度に短くして作品制作の邪魔にならないようにする方法もあります。
ただし、疲れているのに記録を途切れさせないためだけに描いているなら、頻度を下げてもよいと思います。目的に必要な量を選ぶのであって、毎日続けた日数を増やすことが目的ではありません。
まとめ:必要なときに、目的を決めて続ける
社会人がクロッキーをするなら、最初から毎日続けようとしなくても構いません。
まずは週2〜3回、一回10〜15分程度から始めます。
その日の目的を一つ決め、描いたあとは同じ失敗を探す。できれば、自分の作品でも似たポーズを描いてみる。
ポーズの硬さや比率の崩れが気になる時期は回数を増やし、別の課題に取り組みたい時期は減らします。
今日始めるなら、人物写真を一枚選び、五分で一体描いてみます。そのあと写真と比べ、一番違っていたところを一つだけ重ねて直すところまで行えば、次に何を練習するかも見つけやすくなります。


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